2025年10月24日の中央社会保険医療協議会 総会にて「敷地内薬局」をテーマに議論が行われました。
敷地内薬局の評価は令和6年度改定で厳格化されたばかりですが、改定後もさまざまな課題が指摘されています。会議では、現状の課題整理と次期改定に向けた論点の整理が行われ、議論が進められました。とりわけ、議論の行方次第では医療モール型薬局への影響が懸念されており、高い関心を集めています。
そこで本記事では、当日の会議資料に基づき、議論の方向性を解説します。
注記:本記事は筆者による考察を含みます。内容の正確性・完全性を保証するものではありません。また記事公開時点(2025年10月24日)の情報に基づいて作成しています。ご了承のうえご覧ください。
<参考資料>
敷地内薬局の評価「特別調剤基本料A」の在り方が議論に
これまで、敷地内薬局の評価は「特別調剤基本料(現・特別調剤基本料A)」として、累次改定のたびに段階的に引き下げられてきました。
とりわけ令和6年度改定では、基本料のさらなる引き下げに加え、関連する点数の減算・算定不可や、医療機関側の一部点数の算定不可といった措置まで広がり、総合的に厳しい評価となっています。
現場からは「敷地内薬局に対する減算ルールが厳しすぎる」という声がある一方、医療モール型薬局への配慮として設けられたルールを活用することで、結果的に敷地内薬局の実態に近い開局が可能になっているとの指摘もあります。こうした状況により、評価の公平性と実効性に課題が浮き彫りになっています。
このため今回の総会では、「特別調剤基本料A」の評価の在り方が主要論点として取り上げられました。
医療モールへの除外規定を使った抜け道を問題視
令和2年度改定では、病院との不動産取引等の特別な関係を有する薬局を対象としていた特別調剤基本料の適用範囲を、診療所まで拡大しました。
その際、従来から存在する医療モールに配慮し、施設基準に「ただし、当該保険薬局の所在する建物内に診療所が所在している場合を除く」という除外規定(いわゆる「ただし書き」)が設けられました。
しかし近年、この「ただし書き」を活用し、病院の敷地内にある薬局が同一建物内に診療所を誘致・入居させることで、結果的に特別調剤基本料Aの対象外となっている事例が指摘されています。
図のとおり、
- 薬局と診療所が同一建物に共存するケース
- 病院開設法人が所有する敷地・建物内に薬局と診療所(ほかテナント)が入るケース
などで、形式上は「ただし書き」に該当する一方、実態としては病院敷地内薬局の評価の回避に用いられている可能性を指摘しています。
この運用は、敷地内薬局への厳格な評価趣旨(処方の中立性確保、患者誘導の抑制)を損なうおそれがあり、厚生労働省は公平性・実効性の観点から問題視しているようです。
「ただし書き」廃止を検討へ、ビル型モールだけでなくビレッジ型モールも考慮
このような背景を踏まえて、「ただし書き」部分の適用範囲を見直す方向で次の論点が提示されています。
<個別事項について(その3) 敷地内薬局 論点抜粋>
○特別調剤基本料Aのただし書きは、従来から存在する医療モールへの配慮であったが、病院での敷地内薬局の適用外に用いられている例があり、この適用範囲について、どのように考えるか。
○医療モールへのただし書きの適用例は多いなか、その適用範囲についてどのように考えるか。
ひと口に医療モールといっても、主に次の2類型があります。
- ビル型医療モール:同一建物内に複数の医療機関と薬局が入居する形態(「ただし書き」の対象)
- ビレッジ型医療モール:同一敷地内に複数の独立棟(クリニック・薬局)が並ぶ形態
現行制度では、ビル型には「同一建物内に診療所が所在する場合は除く」というただし書きが適用され、特別調剤基本料Aの対象外となります。一方、ビレッジ型は同一建物ではないためただし書きが適用されず、医療機関との特別な関係の有無により特別調剤基本料Aの該当性が左右されます。結果として、制度上の整合性に課題がある状況です。
このため総会では、ビル型だけでなくビレッジ型も踏まえたうえで、「ただし書き」の在り方そのものの見直し(廃止を含む)や、適用範囲の明確化を検討課題として位置づけています。
医療資源の少ない地域等、本来適用外が好ましい立地も配慮か
これまで特別調剤基本料Aの適用拡大を示す方針の内容でしたが、一方で本来の主旨から考えて適用すべきでないケースについても論点が示されています。
<個別事項について(その3) 敷地内薬局 論点抜粋>
○医療資源の少ない地域における敷地内薬局等の、特別調剤基本料Aの適用について、どのように考えるか。
まず、「医療資源の少ない地域」への適用です。自治体が公的医療提供体制を構築するため、自治体保有地に薬局を誘致するケースでは、当該地に自治体が運営・委託する医療機関(例:国保診療所)がある場合、現行の施設基準上は自治体と薬局との間に「特別な関係」が生じ得るため、特別調剤基本料Aに該当すると判断せざるを得ない場面があります。
これは、いわゆる「一体的な構造・経営」を避けるという考え方に基づくものですが、公的主体が関与するケースを民間の囲い込みと同列に扱うことの妥当性が問題提起されています。
あわせて、「規模の大きな商業施設」における取り扱いも論点となっています。
現行では、薬局と診療所が同一建物に入る場合でも「ただし書き」により特別調剤基本料Aの対象外となります。しかし、薬局の関連会社が当該大型商業施設を所有・運営しているケースでは、「ただし書き」が廃止されると、同一建物内の診療所との関係が「特別な関係」と評価され、Aの対象になり得ます。
一方で、大型商業施設は医療以外の多様なテナントで構成され、来訪者も診療目的に限られないことから、直ちに他の敷地内薬局と同様に扱うことの是非についても検討が求められています。
実務上は、地域医療確保(医療資源の少ない地域)と、商業施設という公共性の高い空間の特殊性をどう踏まえるかが鍵です。仮に「ただし書き」を見直す(廃止を含む)場合でも、誘致主体やテナント構成、患者誘導の有無・表示や患者動線といった実態に即した判定基準の明確化が不可欠といえるでしょう。
その他に、特別調剤基本料Aで算定できる薬学管理料に関する論点が示されましたが割愛いたします。
今後の予想される展開は?
医療モールを運営する薬局にとって、今回示された論点の行方は事業の存続に直結する重要テーマです。
筆者は、令和2年度改定で特別調剤基本料の対象が診療所まで拡大され、同時に医療モールへ配慮した「ただし書き」が導入された時点で、いずれ見直し議論が避けられないと感じていました。いよいよ本格的な検討段階に入った印象です。
今後の見通しですが、仮に最も厳しいシナリオ(「ただし書き」の全面削除)が採られたとしても、直ちに全ての医療モールへ一律適用される可能性は高くないと見ています。過去の改定でも、影響を緩和するための経過措置が講じられており、令和2年度改定時には対象を平成30年4月1日以降に新規開局した薬局に限定する等の取扱いがありました。今回も、一定の開局実績がある医療モール内薬局には経過措置が設定される余地があると考えます。
そもそも、「ただし書き」の単純削除にまでは至らない可能性が高いと考えています。
そのように予想する理由は次のとおりです。
- 調剤基本料1(45点)から特別調剤基本料A(5点)への落差が極めて大きく、影響が急激になりやすい
- 医療モールは地域に広く定着しており、医療アクセス上の役割が大きい
- 影響は薬局にとどまらず、同一施設の診療所等の運営にも及ぶ
- 医療経済実態調査の結果を踏まえて検討する方針が示されている
想定される落としどころとしては、病院の敷地内薬局と医療モールを切り分ける新たな基準を設け、
- 病院敷地内薬局:従来の特別調剤基本料Aの枠組みで厳格に評価
- 医療モール:新たな基本料区分を創設し、医療経済実態調査の結果を踏まえて点数設定
- 既存モールには一定期間の経過措置を付与
といった方向性が考えられます。
以上は現時点(2025年10月24日)での筆者見解です。続報が出次第、最新情報に基づきアップデートします。




