2025年5月27日、財務省の諮問機関である財政制度等審議会(財政審)が、「激動の世界を見据えたあるべき財政運営」と題する2025年度予算編成に向けた春の建議(以下、2025春建議)を発表しました。特に診療報酬改定の前年にあたる今回は、例年よりも一歩踏み込んだ具体的な診療報酬・調剤報酬改定項目にも言及する内容となっています。
本記事では、2025年度春建議から調剤分野に関わるポイントを中心に、現場への影響や今後の展望について詳しく解説します。
はじめに
財政制度等審議会(財政審)とは
財政制度等審議会は、国の財政に関わる重要な制度や政策について専門的に話し合う、財務省の審議会です。経済学者、大学教授、経営者、メディア関係者など、さまざまな分野の有識者がメンバーとして参加しており、国の予算編成や税制改革、社会保障制度のあり方などについて幅広く議論しています。
この審議会の意見は、政府の財政政策に大きな影響を与えることも多く、毎年の予算案にも反映されます。国民生活にも関わる重要なテーマが取り上げられるため、注目しておきたい会議のひとつです。
多くの場合、財政規律の堅持(=国の歳出拡大を抑制する姿勢)を基本スタンスとするのが特徴です。国の財政赤字が深刻な中、社会保障費の増大が大きな課題となっているため、毎年春・秋に財政制度等審議会の建議として予算編成に向けた改革案や見直し案を発信します。

2025春建議の概要
概要資料では、「医療」に関する記述に「全人的なケアを提供する医療機関が適切に評価されるよう報酬体系の見直しを図るべき」とし、特にかかりつけ医機能の評価の抜本的な見直しを中心とした構造的改革への強い姿勢が打ち出されています。
一方で、調剤報酬に関する記載は見当たりません。 そのため一見すると、今回は薬局に直接関係する動きは少ないと受け取られるかもしれません。
ただし、それはあくまで「概要資料」までの話です。
実際の建議本文(第Ⅴ章「持続可能な社会保障制度の構築」)では、「調剤報酬改定」について明確に記載されています。

調剤報酬改定に関する言及
調剤報酬改定に関する内容は、大きくは次の2つの方向性で言及されています。
- 対人業務を重点的に評価する報酬体系への一層のシフト
- 薬局の経営状況を踏まえた更なる調剤基本料等の適正化
いずれも、直近の調剤報酬改定の方向性は同じで、厳しい内容が言及されています。

「調剤管理料」のメリハリ不足を指摘
2022年度改定では、従来の調剤料が「薬剤調製料(対物業務)」と「調剤管理料(対人業務)」に分類され、評価の見直しが行われたことはご存じの方も多いかと思います。
この改定により、それぞれの点数を個別に調整しやすくなったため、2024年度改定ではさらに見直しが進むのではないかとの声も少なからずありました。
しかし実際には、2024年度改定では薬剤調製料・調剤管理料ともに大きな変更はなく、薬学的管理業務の中でも、調剤管理料以外の対人業務に関する点数が中心に評価される内容となりました。
2025春建議では、「(2022年度改定前と比べて)点数はおおむね維持されている」と言及されており、さらに「算定されている調剤管理料について、メリハリの付け方が不十分である」との見解が示されました。
その上で、未だ算定状況が芳しいとは言えない状況にあるかかりつけ薬剤師指導料や服用薬剤調整支援料など、真に対人業務を評価する項目への重点的な評価の移行を求めています。


後発医薬品調剤体制加算 目標に応じ再編を
かねてより「そろそろ梯子が外されるのではないか」との見方が根強かった後発医薬品調剤体制加算についても、方向性が示されました。
現在、後発医薬品の数量シェアはすでに9割近くに到達しており、政府が掲げてきた政策目標は一定程度達成されたと評価できます。このような状況を背景に、建議では「政策目標の達成状況に照らして、必要に応じて報酬体系の再編等を検討すべき」と明記されました。
後発医薬品調剤体制加算は、薬局が後発医薬品の使用促進に取り組むことを促すためのインセンティブとして設けられた経緯がありますが、既に普及が進んだ現状では、その役割を終えつつあるとの見方が強まっています。今後は、単なる「取組姿勢」ではなく、より質の高い対人業務への評価へとシフトしていくことが求められているといえるでしょう。

調剤基本料 集中率が高い薬局への評価 更なる適正化を求める
これまでの診療報酬改定では、調剤基本料1以外の区分が徐々に拡大され、処方箋の受付回数や集中率に応じたメリハリのある評価が進められてきました。
令和6年度(2024年度)改定では、月4,000回超の受付かつ、上位3医療機関からの処方箋集中率が70%を超える薬局が、新たに調剤基本料2の対象とされ、特定医療機関への依存度が高い薬局に対する評価の見直しが進みました。
さらに、調剤基本料1を算定している薬局の多くが、受付回数が2,000回未満であっても集中率が高い(おおよそ70%超)という実態が指摘されています。この点は、2023年秋の財政審建議から継続して指摘されている内容であり、評価の適正化が依然として課題であることを示しています。
こうした状況を踏まえ、今回の2025年春の建議でも改めて、「経営の実態を踏まえながら、処方箋集中率が高い薬局における調剤基本料1の適用範囲を縮小すべき」と明記されています。
今後の改定でも、調剤基本料2の受付回数や集中率の基準見直しが引き続き重要な論点となる可能性が高いといえそうです。

その他にも調剤に影響しうる内容も
リフィル処方箋の推進に向けた診療報酬上の加減算も?!
2022年4月の診療報酬改定で導入されたリフィル処方箋。薬局現場としても、慢性疾患の患者さんにとって通院負担の軽減につながる制度として注目していた方も多いかと思います。
しかし、最新のデータ(令和6年7月診療分)では、リフィル処方箋の実績は全体のわずか0.07%にとどまっています。制度としては導入されたものの、浸透はまだまだこれからという状況です。
そうした中、2025年春建議では、リフィル処方箋の活用を本格的に推進する方向性を示示しています。具体的には、早い段階でKPI(指標)を設定し、実績をリアルタイムで把握できるような仕組みを整備すべきと提言されています。これは、後発医薬品の数量シェアをモニタリングしてきた流れに近く、リフィル処方箋の普及状況を「見える化」しようという動きと捉えられます。
さらに一歩踏み込み、今後の推進策として、特定の慢性疾患等において「診療報酬上の加減算も含めた措置」を検討すべきとの記載も見られました。これは、リフィル処方の積極的な活用を促すための新たなインセンティブの導入が検討段階に入っていることを意味します。
ちなみに、前回2024年度改定では、生活習慣病管理料などにリフィル処方の算定要件化が議論されたものの、結果的にはポスター掲示などでの周知にとどまりました。次回改定では、いよいよ報酬上のメリハリ(加算や要件化)として反映される可能性も出てきています。
薬局としては、今後の動向に注視するとともに、リフィル処方に対応できる体制づくりを今のうちから進めておくことが大切になりそうです。

医療従事者の人材紹介に関する規制強化を言及
薬剤師等の医療従事者採用では人材紹介会社の活用が一般的になっており、
「紹介料が高額で経営を圧迫する」
「せっかく採用してもすぐに辞めてしまい、紹介料が無駄になった」
といった声が多く聞かれます。
こうした現場の実態を受けて、2025年春建議では、医療従事者の人材紹介について次のような指摘がなされました。
「保険料と税金で賄われている医療機関の経営原資が、必要以上に紹介手数料に流れている」
「手数料の多寡や定着状況により紹介業者が選別・淘汰される仕組みを推進し、必要に応じて更なる規制強化を検討すべき」
と述べられており、今後の制度見直しの方向性を示唆しています。
なお、人材紹介に対する規制強化はすでに2025年4月から、手数料率の掲示義務やお祝い金禁止がスタートしています。それでも紹介料の高さや人材の定着率への不安は根強く残っています。
今後の具体的な対策についてはまだ示されていませんが、たとえば、次の方策が考えられるかもしれません。
- 手数料が一定割合を超える場合の説明義務
- 定着率や手数料水準に応じた認証制度の導入

おわりに
今回の春の建議では、薬局を取り巻く制度や点数について、より厳格で実効性のある見直しを求める内容が多く示されました。これまで一定の猶予が与えられてきた対物業務の評価についても、いよいよ見直しの方向性が明言され、調剤基本料の適用範囲、調剤管理料の評価の在り方、リフィル処方箋の実効性向上など、薬局経営に直結する具体的な課題が取り上げられています。
これらは単なる制度改定にとどまらず、「薬局に求められる役割の明確化」と「限られた医療財源の中での再分配」という、根本的な問いに向き合う内容です。
正直なところ、建議のすべてが次回の改定に直ちに反映されるとは考えにくいものの、財政を担う財務省の視点が長期的には制度に反映されていく可能性は高いといえるでしょう。
薬局としては、こうした改定の動向を注視しつつも、
- 対人業務へのシフトに備えた人材育成
- 経営実態に即した業務の再設計
といった中長期的な備えを進めていく必要があります。
制度に「対応する」だけでなく、その先を見据えて主体的に動くことができる薬局こそが、次の時代にも選ばれ続けるのではないでしょうか。